今年の夏、当山本堂前にとある石碑が建立されたのを、ご存知の方も多いと思います。お寺に遊びにくる子どもたちや、早朝参りをする信徒の方々に「この碑はなんですか?」と、よく尋ねられます。
石碑は、圓藏院が導師となり、約十年の歳月をかけて、檀家信徒のみなさんが、秩父、坂東、西国の約三百ヶ寺を巡礼し了えた功徳を記念した、「巡礼結願記念碑」です。当山総代の小熊光雄氏をはじめとする巡礼者の皆様が、お寺にご寄進してくださいました。
巡礼結願記念碑の正面には「皆共成仏道」(かいぐ じょうぶつ どう)と彫刻してあります。この経句を「この世の衆生が皆と共に、仏として幸福になれますように」とも意訳できるでしょう。『真言宗智山派勤行式』を日々お唱えの方はおわかりになると思いますが、勤行式の最後をしめくくる経文です。
人間はひとりきりでは、仏となり、幸福な人生を送ることはできません。家族がいて、恋人がいて、友人がいて、心身を豊かにしてくれる動植物たち、われわれの生きる世界があり、その全体が幸せであることで、個人は幸福になれます。壮大な話ですが、大切な人が不幸であれば、自分自身、幸せな気持ちになぞなれず、健やかに生きてゆくことができないのは当然でしょう。
現代では「お独りさま」、「孤人」などの価値観がもてはやされていますが、浅薄な幻想ではないでしょうか。どんな個人も、他者の助力と友愛なくば生存してゆけません。それを忘れて生きることは、まさに身勝手です。
巡礼では、各寺で勤行式をお唱えし、最後に必ず「皆共成仏道」とお祈りします。巡礼者の方々は、自分自身や家族のためだけにお祈りをするのではありません。巡礼に行きたくても行けない方々や、あまねく存在の幸福を願ってお祈りをするのです。その意味でも、記念碑に「皆共成仏道」と彫られているのは、まさにふさわしいことといえます。
また、この記念碑の頂部には、くるくる回る石の車がついています。これは、「マニ車」といって、一周させると経巻一本をお唱えするのと同じ功徳があるとされています。当山本堂の前に立たれたら、ぜひ、マニ車を回し、仏様に合掌して、最後に「皆共成仏道」とお祈りください。