円蔵院では地域貢献活動として四十年以上にわたり、毎年三月末に「円蔵院桜茶会」を開催してまいりました。しかし令和二年からは新型コロナ禍のため休会を余儀なくさていました。そして、今年。令和五年三月二十八日、桜茶会は三年ぶりに復活、再開を果たしました。
当日はあいにくの雨でしたが、驚くべき早さで円蔵院のしだれ桜(さいたま市天然記念物)は大満開。お客様は花吹雪のなかを通って庫裡内の茶室へ。雨に濡れて芽吹く茶庭の緑をながめながら、しっとりとした茶席を満喫されておりました。「久しぶりにお寺での本格的なお茶会を愉しめました」と大変好評でした。
今年の桜茶会は円蔵院檀家を含む五十名が、誰ひとり欠席することなく、全員参加されました。そしてお客様と開催者の石田社中の総意により、参加費の五万円はすべてウクライナ支援募金に寄付されたのです。
茶室には「百花為誰開」の掛軸がかけられていました。元は百花春至為誰開であり、春に美しく咲く花はいったい誰の為に開くのか、という禅問です。
茶道の表千家では、自然の移り変わりと美は人の手がとどかないものだけれど、人はそんな自然を敬って生きる他はない、という教えと考えるのだそうです。
今春のしだれ桜の開花はほんとうに早く、春彼岸中はすでに満開でした。春を迎える心の準備ができないうちに咲いてしまった美しい桜をながめていると、無常という仏語と、コロナ禍の三年間が思い浮かびました。
春の花々は誰はばかることなく、自分のためだけに咲き美を謳歌します。けれどもその美しい姿が諸生物を慰め癒してくれるのです。それはまさに自利利他の境地。
人もそんな生き方が理想なのではないでしょうか。